中盤から期待とは違った方面に向かってしまったな、と感じましたが、それでも序盤は実に面白かった。お話しして参ります。
和製スチームパンクがいい味出してる
舞台は江戸後期~明治初期頃の日本をモデルとした日ノ本。史実以上に蒸気技術が発展したいわゆるスチームパンクと呼ばれるジャンル。
なにがなんでも蒸気技術でなくてはならんのかと問われれば答えはノーですが、これがあってこそカバネリだと感じさせてくれるポイントになっていると思います。古き良き日本と、発展した技術の親和性が意外と高い。
とにかく無名ちゃんがかわいかった
一話から登場し、ミステリアスな雰囲気を醸し出す謎の美少女。美樹本先生原案の、和の要素と洋の要素がうまく取り込まれたビジュアルが美しい。
そんな無名ちゃんの一挙手一投足が愛らしくてたまらないし、戦闘シーンでは逆にこれでもかというくらいかっこいい。彼女を眺めているだけでも楽しくなる。
それほどまでに美しい作画に引き込まれ、毎週視聴が楽しみでした。中盤辺りからさすがに細かい場面は作画レベルが低下していましたが、それでも無名ちゃんのカットは並々ならぬ気合を感じさせてくれるクオリティでした。
人物像ですが、カバネが原因で両親を亡くした過去から「弱いやつが亡くなり強いやつが生き残る」を信条とし、強さを求めてカバネリとなった経緯を持っており、強さにこだわる様子が随所で見受けられます。
強くなければ生き残れない、自分は強いんだと言い聞かせるように、戦うことで存在意義を見出していた彼女が、次第に自分の弱さを受け入れ素の自分に戻っていく。中盤まではそんな彼女の成長物語が主軸にありました。
生駒とともにカバネと戦う主人公であると同時に、未熟さゆえに生駒に救われるヒロインでもあるわけです。登場当初は謎だらけだったものの、蓋を開けばただ強がっているだけの12歳の少女がいた。根っこの部分はそんな感じ。でもどこか飄々としたところがあるのも魅力のひとつ。
鰍や逞生とのやり取りが好きです。特に「おデブ」呼びは良かった。ほっこりします。
美馬の存在は必要だったのか
旅の中で絆を深めていく甲鉄城の仲間たちの図で良い感じにまとまっていたところに急遽現れた兄様こと美馬。彼の目的は倒幕。引いては父である将軍に裏切られ命の危機に晒されたことへの復讐です。
登場してから最終回までほとんど彼の独壇場で、やりたい放題。甲鉄城サイドは一矢報いることすらできず、基本的に甲鉄城目線で視聴している人からすると俄然フラストレーションが溜まります。
また、私的な復讐のために多くの民衆を犠牲にしており、その後どうするのかということが明確に宣言されていない。彼の唱える「弱いやつが亡くなり強いやつが生き残る」とは、幕府の独裁政治を廃止し、民衆が自分の力だけで生きていく無法地帯を築き上げることなのか?どの道、私情の域を出ていないように感じられてしまうのが不満のひとつです。
そして最大の不満は、美馬の存在により無名の成長がまるで無意味に感じられる展開となってしまったことです。美馬の所業に疑問を感じつつも、彼に見捨てられてしまう恐怖から盲目的に従う。甲鉄城の仲間と再び仲違いをする(ここは正直道中でおなかいっぱいでした)。
最終的に自分の意思で彼の元を去る決意を見せるも、融合群体の核にされてしまい救われるだけのお姫様に成り下がってしまいました。つまり出番自体が奪われ成長を見せる機会を失ってしまったわけです。個人的には、あくまで主人公としてこれまでの積み重ねの結果を見せてもらいたかったのが正直なところです。
おまけの不満に、人間同士の争いにシフトしてしまったことが原因でカバネ問題がなにひとつ解決していないことです。そもそもそのことをそっちのけで復讐なんてしている場合か、とも思うのですが、あえて生駒の前に姿を晒したことから美馬は破滅願望でも持っていて、後のことは何も考えていないのかもしれません。ううむ。
逆にいえば、二期を製作するだけの余地は残っているということにもなります。カバネ発祥の地は東欧ですので、そうなると舞台が世界進出するかもしれない。満を持して鈴木さんの謎が明らかに?
「俺の誇れる俺になる」
甲鉄城のカバネリとは、かつて妹を亡くし己の臆病を恨む生駒が、無名という妹分を救うことで今度こそ「俺の誇れる俺になる」ための物語だったのでしょう。
そのためにはなにがなんでも生駒が無名を救わなければならない。つまり無名が救われる側に回らなければならない。だからこそ無名は融合群体の核になる必要があった。そのことは理解できるとはいえ、救われるのが結末ではなく、その後無名ちゃんの見せ場があればより納得いったかなといった具合です。
よくよく振り返ると、かつての臆病を後悔し身の危険を厭わず突き進む生駒と、恐怖や臆病に駆られ復讐に奮起する美馬は対になっているんですね。互いの絡みがもう少し欲しかったところです。
まとめ
なんで最終回直前で不屈の闘志が売りの生駒がヘタれてんのとか、なんで立ち直ったと思ったら急に髪の毛剃ってんのとか、金剛郭着く前に黒血漿打って時間切れになったらどうすんのとか、なんで黒血漿打った途端カバネリが超能力使えるようになるのとか、生駒が白血漿を打たれたと知らない無名や来栖がなんの根拠もなく甲鉄城に連れ帰るとか正気の沙汰じゃないだろとか、突っ込みどころはいくらでもあるわけです。
ただ、予想の斜め上のしっちゃかめっちゃかなところに着地せず、定石通り生駒と無名ちゃんが救われて良かった。素直にそう感じます。しかし逞生の犠牲だけは残念。本当に必要だったのか。
期待が大きい分あれこれ不満もありますが、美馬が登場する前までは素直に楽しめました。それでは。